相続
【遺言】
Q:自分の死後の遺産相続について考えています。生前贈与や遺言書の作成など、どのようにしたらよいかアドバイス願います。
A:遺産相続の準備としては、通常、生前の財産処分(贈与・売買など)と遺言書の作成を組み合わせて行います。
本来は遺言書だけで全部済ませられればよいのですが、日本の法律には、遺留分(相続人の最低の取り分)という厄介なものがあり、多くの場合、100%遺言書のとおりには行かず、難儀しているというのが現状です(相続紛争予防=遺留分対策、と言っても過言ではありません)。
そのため、事業をされている方や多額の資産をお持ちの方については、生前にある程度まで財産を整理しておくことが望ましいと言えます。
生前贈与についても遺留分は適用されるので、譲渡を有償にしたり(代金の支払いを長期の分割払いにすればの譲受人の負担はかなり軽減されます、相続権のない方(嫁、婿、孫)や法人なども譲渡の相手先に含めると、プランが立てやすくなります。
保険料一時払いの生命保険も、遺留分対策として広く活用されています(個人的には、これをお勧めしています)。
遺言書についても、死後に相続人間で裁判にならないように内容は吟味する必要があります。
例えば、生前贈与している場合はその点についても後に紛争の原因にならないように遺言書でケアーしておく必要があります。具体的には、贈与を受けられなかった相続人から、”特別受益(相続財産の前渡し)”の主張をされる可能性があります。そのリスクを避けるために、”特別受益の持ち戻し免除(相続時の精算はしないでよいという意思表示)”を遺言書に明記しておくべきなのですが、この点について配慮した遺言書は滅多にみかけません。
逆に、生前贈与を特別受益として遺産にカウントしてもらいたい場合にもその旨遺言書に明記しておくべきなのですが、これも記載がないことがほどんどで、結局、もらった・もらっていないの紛争を招いています。
公証人は、公務員という立場上の制約もあって、具体的なオーダーがない限り、これらの特記事項を遺言書に盛り込んではくれません。相談だけでも良いので、専門家のアドバイスを受けてから遺言書の内容を決めたほうが良いと思います。
【遺産の調査】
Q:父が亡くなり、きょうだい間で遺産分割の話し合いをしています。父と同居していた長男が遺産の内容を教えようとはしません。どうしたらよいでしょうか。
A:不動産は、大体の所在が分かれば、法務局という役所で誰でも調べることができます。所在が分からない場合は、市町村役場で名寄帳を取り寄せれば、一覧表ももらえます。
預貯金も、相続人であることを戸籍謄本などで証明できれば、金融機関が残高証明書や取引履歴を出してくれます。
生命保険の支払いの有無も、所定の手続きを踏めば、調査可能です。
一般の方でもできないことはありませんが、弁護士に依頼したほうがスムーズにいくと思います(ただし、数万円の手数料がかかります)。
【不動産の評価額】
Q:遺産の中に不動産が含まれています。遺産分割にあたって不動産はどのように評価するのですか。
A:不動産鑑定士という専門家に鑑定してもらうのが正式なやり方ですが、物件一つについて10〜20万円程度の費用かかります。
そこで、不動産の件数が少ない場合、又は不動産の大半が価値の低い農地や山林の場合などでは、固定資産評価額をもとに不動産を評価するのが通例です。固定資産評価額は、毎年4月(茨城の場合)に役所から送付される固定資産税の納付書に記載されています。
【寄与分】
Q:亡父の遺産分割協議をしています。相続人は私を含め兄弟3人です。私は父と同居して生活全般の面倒を見てきました。法律では、その分私の相続分が上乗せされると聞きましたが、本当でしょうか。
A:たしかに、亡くなった方の療養看護に多大な貢献をした相続人については、法律で、本来の相続分に上乗せした相続分が認められます。これを「寄与分」と言います。
しかし、実際には寄与分が認められるためのハードルは非常に高く、世間一般のレベルを超える多大な献身をしたこと要件とされています。
具体的には、長年にわたり在宅で介護してきたとか、あるいは、老人福祉施設の入所費用を全部肩代わりしていたとか、そこまでしないと寄与分は認められません。単に親と同居して食事や洗濯などの面倒を見ていたとか、通院の送り迎えをしていたというのでは不十分です。
裁判所の遺産分割調停・審判でも寄与分が認められることはまれです(東京家裁では、寄与分は簡単に認められるものではないので安易に主張しないでください、という趣旨のパンフレットを調停利用者に配布しているくらいです)。
親の面倒を見た者が報われないのは不公平だという批判をよく聞きますが、現在の相続法は法定相続分を原則とし、寄与分はあくまでも特殊な場合にのみ適用される「例外」という位置づけですので、仕方がありません。
対策としては、生前に親とよく話し合い、生前に財産をある程度処分したり、遺言書を作成したりするなどして、妥当な遺産相続が実現されるよう準備しておく以外にありません。
【調停で弁護士を付ける必要があるか】
Q:遺産分割調停を申し立てようと考えています。弁護士を付けたほうが良いでしょうか。
A:遺産の規模が小さくて費用倒れになる場合はともかく、時価総額1000万円以上の遺産がある場合は弁護士を付けたほうが良いと思います。
遺産相続はもっとも身近な紛争のひとつですが、法律的には非常に高度で複雑な分野です。例えば、事案によっては、ある部分は地方裁判所の管轄、別の部分は家庭裁判所の管轄などと一つの手続きで全部処理できない事態が生じることもあります。
遺産の何分の1という法定相続分を修正する制度として、”特別受益”、”寄与分”というものがあるのですが、いずれもひと筋縄では行かない複雑な運用がなされています(これらの運用をすべて記憶することは不可能なので、私も法律相談のときには、必ず文献を参照しながらお答えするようにしています)。
裁判所に遺産分割調停を申し立てると、2名の調停委員が話し合いの仲立ちをしてくれますが、この方々は法律の専門家とは限りません。率直に申し上げて、正確な知識をお持ちでない方も多数含まれています(複雑すぎる法律にも原因があり、仕方ない面もあります)。
そのような現状で、自分は法律上どんな権利主張が可能なのか、相手の言い分は妥当なのか、的確にアドバイスをしてくれる人を必要とするのであれば、弁護士を付けるしかありません。
とりわけ相手方に弁護士が付いた場合は、あなたも弁護士を付けないといけないと、相手の思うままに進んでしまう恐れがあります。
【相続放棄する場合の注意点】
Q:夫が亡くなりました。資産より負債のほうが大きいので相続放棄をするつもりです。気を付けるべき点を教えてください。
A:夫の遺産に手を付けると、相続を承認したとみなされ相続放棄ができなくなります。
例えば、夫の死後に預金を払い戻ししたりすると、相続放棄をしていたとしても、当該金融機関から相続債務の支払いを求められることがあります。気を付けてください(裁判所で相続放棄の手続きをしていても、当該相続放棄は無効とされてしまいます)。
公共料金など夫名義の負債で支払う必要のあるものは、自己資金で支払ってください。
夫名義の資産の名義変更もアウトです。迷ったら弁護士に相談してください。